PI社製コントローラの特徴について

アナログコントローラとデジタルコントローラのそれぞれの利点

ピーアイ(PI)社では主力製品として、自社開発のピエゾ素子を使用したピエゾアクチュエーター(PICMA®)、自社設計によるピエゾステージ(リニアステージ・回転ステージ・多軸ステージなど)を販売しています。これと同時にそれらピエゾ素子を駆動、制御するためのアンプやコントローラの設計・販売もしています。ピーアイ社ではピエゾ素子の特性やお客様の目的に応じ①アナログコントローラ、②デジタルコントローラの2種類のコントローラを用意しています。

まず、この2種類のコントローラの特徴について説明する前に、まずピエゾ素子の特徴について簡単に説明をします。

ピエゾ素子は電圧を印加することで、素子内の分子の分極化により素子の長さが変化します。つまり、印加する電圧の強さによって、素子の伸び量を制御することが出来ます。

この変化は極僅かな電圧の変化にも反応するため、理論的にはナノメートル以下の伸び量を制御することが可能です。但し、ピエゾ素子の伸び量を制御する上で理解しておいた方が良い2つの物理的な特徴(ヒステリシスとクリーピング)があります。

①ヒステリシス

上図の「Open loop」の波形がヒステリシスになります。

ピエゾ素子に対して電圧の印加を0→100→0と印加した場合、動作量は往路と復路で異なる曲線を辿り、この往路と復路の差をヒステリシスと呼びます。

このヒステリシスを補正するために、センサーを使用し位置制御のクローズド制御を行うことで、上図「Closed loop」の様な直性的な動作波形を得ることが可能となります。

 

②クリーピング

ピエゾ素子は電圧の印加を一定にしても、素子内部の分極化は直ぐには収まらず、暫くの間分極化が進みます。これに伴い素子の位置も時間とともに変化し、安定するまでに時間がかかります。この一連の現象を「クリーピング」と呼びます。

この2つの特性により、素子の伸び量を精密に制御し、目的の位置で停止させることは電圧の制御だけ(オープンループ)では非常に困難となります。

そこで、これらの特性を積極的に制御するためにピエゾアクチュエーターや、ピエゾステージ内にその変化量や、動作量を検出するためのセンサーを内蔵させ、センサーからの信号をフィードバックしクローズドループ制御を行います。このクローズドループ制御を行うことでヒステリシスやクリーピングによる動作量の差や位置ずれを抑制し、高精度に位置の制御を行うことが可能となります。

基本的なクローズドループ(内蔵センサによる位置制御)の方法

ピーアイ社ではこの制御を行うためのコントローラとして、先に述べた2種類のコントローラをご用意しております。基本的には制御ループ、回路は上図の様になり、主な目的、機能は両コントローラとも同じですが、それぞれ下記のような特徴があります。

A)アナログコントローラ
アナログコントローラでは、ピエゾ駆動用電源アンプ及び、クローズドループ制御に関する基本的な処理をすべてアナログ回路で行います。ピエゾへの印加電圧回路、センサーの読み取り及び、フィードバック回路すべてがアナログ処理となります。通信(RA232/USB/LAN)を用いた制御を行う場合、通信信号の処理はデジタルで処理されますが、その後信号はD/A変換されアナログで処理されます。
アナログコントローラの利点としては以下の特徴があります。

  1. 回路が比較的容易で、価格的には比較的安価 
  2. 制御が容易(通常0-10Vの電圧で位置を制御) 
  3. アンプ出力、チャンネル数などによる種類が豊富 
  4. 低電圧ピエゾ素子(PICMA®)の他、高電圧ピエゾ素子(PICA®)対応のアンプのラインナップも豊富 
  5. 特徴的な機能のあるアンプの供給が可能 <br>例:チャージアンプ(E-506) <br> ベンディングアクチュエータ用アンプ(E-651)

 

また、アナログコントローラの欠点としては以下の点があります。

  1. クローズドループ制御を行う際に必要なゲインやオフセット等の調整を使用するセンサーやピエゾ素子の特性に合わせ個別に調整する必要があるが、この調整はアナログで行われるため、個々の組み合わせを変更して使用することは出来ない。
  2. 制御はピエゾ素子とセンサーを1対毎に行い、多軸制御に必要なマトリクス処理を行うことが出来ない。

 

アナログコントローラの製品例

アナログコントローラの使用例

    1. オープンループ(電圧制御)コントローラ使用例
      オープンループコントローラを使用すると、ピエゾ素子を電圧で制御することが出来ます。外部からの制御電圧(0~10V)に対して通常10倍もしくは100倍に増幅した電圧をピエゾ素子に入力することが出来ます。ピエゾ素子・ご使用目的により最適な製品がございますので、詳しくは弊社営業にご確認ください。
    2. クローズドループ(位置制御)コントローラ使用例
      クローズドループコントローラを使用すると、ピエゾアクチュエーターやピエゾステージに内蔵されたセンサーの信号をフィードバックすることで、ピエゾ素子を位置制御することが出来ます。位置制御に関する精度は使用するセンサーの種類等に影響されるため詳しくは弊社営業にご確認ください。
    3. チャージアンプ使用例
      オープンループのピエゾ素子をダイナミックな動作用途で使用する場合、通常10~15%程度のヒステリシスが生じますが、このアンプを使用した場合、このヒステリシスをおおよそ2%程度まで低減させることが出来ます。ただし、使用方法や周波数には制限がありますので、詳しくは弊社営業にご確認ください。

D. ベンディングアクチュエータ用アンプ使用例

この製品はベンディングアクチュエータ専用のアンプとなります。ベンディングアクチュエータとは下図のよう動作をするアクチュエータで、この専用アンプを使用すると+Vf、V、-Vfに印加する電圧を外部からの制御電圧によって変化させ、変位量ΔLを変化させることが出来ます。

デジタルコントローラの製品例

B) デジタルコントローラ
デジタルコントローラでは、センサー信号の処理、サーボループの制御及び、ピエゾ印加用電源回路の主要処理回路等を全てデジタル管理しており、演算、補正などの信号処理を行うことが出来ます。
デジタルコントローラの利点としては以下の特徴があります。
① リニアリティーを高次まで補正可能

 

 

② ゲインやオフセット、リニアリティーの補正値等の値をすべて数値化して処理しているため調整・管理が容易で、一部パラメータに関してはステージ内のメモリーに保存させておくことも出来る。
③ 複数のセンサーとピエゾ(PICMA®)をマトリクスで管理・演算処理できるため、複雑な多軸制御が可能

④通常のピエゾ(PICMA®)を内蔵した単軸及び多軸ステージの他、Nexline®、Nexact®, PICMAWalk®などのWalking Driveユニットや、ユニットと内蔵したステージの駆動も可能

⑤ソフトウェアオプションの供給 例:DDL (Dynamic Digital Linearization)

このDDLを使用すると、周期的な動きを伴うアプリケーションで位置精度を大幅に向上させることができます。 クローズドループ動作で「通常の」サーボアルゴリズムに加え、ウェーブジェネレーター出力を組み合わせて使用します。 DDLは、ウェーブジェネレーターの出力サイクルに合わせて軸の動きを観測し、そのデータを制御出力信号の調整に使用します。

APC(Advanced Piezo Control)

APCは、ピエゾアクチュエータシステムのクローズドループ動作時の制御アルゴリズムです。 このアルゴリズムは標準のPID制御アルゴリズムと比較して、次の利点があります。

 

  • もし、外部から振動が励起された場合でも、共振器な対するアクティブ・ダンピングが有効
  • トラッキングエラーを最小限に抑え、ダイナミクス性能を向上
  • ノッチフィルターが不要
  • 共振周波数の変化が±20%以下である場合、APC用のパラメータの再設定が不要

 

※この機能が有効に機能するに、使用するピエゾステージ等の機械的な条件があります。詳しくは弊社営業にご確認ください。

(Resonant Frequency ≤1 kHz, Single spring model)

 

また、デジタルコントローラの欠点としては以下の点があります。

  1. 高出力アンプもしくは、高電圧(1000V)アンプを搭載した機種がない
  2. 比較的安価で、単機能な製品がない