ピエゾアクチュエータの電気的操作

動作電圧

PIセラミックでは、層厚の異なるさまざまな種類のピエゾアクチュエータを取り揃えています。このため、公称動作電圧は、PICMAベンディングアクチュエータでは60 V、PICAアクチュエータでは1000 V以上となっています。

 

電気的挙動

共振周波数よりも十分に低い動作周波数では、ピエゾアクチュエータはコンデンサのように動作します。アクチュエータの変位は、一次推定では保存されている電荷に比例します。アクチュエータの静電容量は、セラミックの面積と厚さ、および材料特性によって決まります。アクチュエータが複数のセラミック層を電気的に並列接続して構成されている場合、静電容量は層の数にも依存します。アクチュエータは内部抵抗が大きいため、リーク電流損失はμA以下となっています。

静電容量値

技術データ表に記載されているアクチュエータの静電容量値は小信号値、すなわち1 V、1000 Hz、20 C、無荷重で測定したものです。ピエゾセラミックの静電容量は電圧強度、温度、および力学的負荷とともに変化し、最大で無荷重、常温時の小信号値の200 %まで増加します。

大信号条件下での計算では、多くの場合、70 %の安全係数を小信号静電容量に加算すれば十分です(図2)。。

アクチュエータの長さがlで一定の場合、n ≈ l/hLであれば以下の式が成り立ちます。

C静電容量[F]
nアクチュエータのセラミック層の数
ε33T誘電率(= ε330 [As/Vm]
Aアクチュエータの断面積[m²]
hLアクチュエータの層厚[m]
lアクチュエータの長さ[m]
P熱に変換される電力[W]
Vピエゾアクチュエータにかかる電圧[V]
Vppピエゾ電圧(ピークツーピーク) [V]

積層アクチュエータの小信号静電容量Cは、コンデンサの場合と同様に推定できます。

したがって、層厚が60 µmのPICMA積層アクチュエータの静電容量は、体積が同じで層厚が500 μmのPICA積層アクチュエータより約70倍大きくなります。これら2つのアクチュエータの電力消費量Pについては、動作電圧が層厚に比例して変化することから、P ~ C V2の関係よりほぼ同じとなります。

ピエゾアクチュエータが帯電した時に保存されるエネルギー量Eは、おおよそ0.5 CV2となります。電荷の(そして変位の)変化があるたびに、以下の電流Iが必要な電荷輸送が生じます。

ゆっくりと位置を変える場合、必要な電流は小さくなります。位置を保持するには、荷重が非常に大きい場合でも、非常に小さいリーク電流を補償するだけで十分です。同様に、電力消費量も小さくなります。電源を急に取り外しても、帯電したアクチュエータが不意に動くことはありません。放電とゼロ位置への復帰は、非常にゆっくりと継続的に行われます。

I電流[A]
Q電荷[C、As]
t時間[秒]
C静電容量[F]
V

ピエゾアクチュエータにかかる電圧[V]

 

位置制御を用いた動作

クローズドループ動作では、最大安全動作周波数もシステムの位相と振幅応答により制限されます。大まかに言えば、機械システムの共振周波数が大きくなるほど、制御帯域幅を高く設定できます。また、センサーの帯域幅およびコントローラーの性能(デジタルかアナログか、フィルターおよびコントローラーの種類、帯域幅)により、位置決めシステムの動作帯域幅も制限されます。

ダイナミック操作

ピエゾアクチュエータの電力消費量

動的用途では、アクチュエータの電力消費量は、周波数およびアクチュエータの静電容量とともに線形的に増加します。1000 Hzおよび10 μmストロークでは、負荷容量が100 N程度の小型ピエゾアクチュエータで必要な無効電力は10 W未満ですが、高負荷(荷重>10 kN超)のアクチュエータでは同一条件でも数百Wが必要になります。

動的運用でのピエゾ素子の発熱

ピエゾアクチュエータの動作は容量性負荷と同様であるため、その電荷電流と放電電流は動作周波数とともに増加します。アクチュエータで生じる熱有効電力Pは、以下のように見積もることができます。

小信号条件では、アクチュエータのピエゾセラミックの誘電損率は0.01から0.02までのオーダーになります。つまり、アクチュエータを流れる電力のうち最大で2 %が熱に変換されるということです。大信号条件では、誘電損率は著しく大きな値になる場合があります(図3)。したがって、最大動作周波数も許容動作温度に依存します。高周波数および大電圧強度では、冷却手段が必須になる場合があります。こうした用途向けに、PIセラミックでは、セラミックの温度を監視する温度センサーを内蔵したピエゾアクチュエータもご用意しています。

P熱に変換される電力 [W]
tan δ誘電損率(無効電力に対する有効電力の比率)
f動作周波数[Hz]
Cアクチュエータの静電容量[F]
Vppピエゾ電圧(ピークツーピーク) [V]
Epp電界強度(ピークツーピーク) [kV/mm]

弊社の各ピエゾアンプの平均電流、ピーク電流、小信号帯域幅は、<>>データシートの仕様で確認できます。

誘電損率

図3に、準静的制御時の常温における各種材料および制御モードでの誘電損率tan δを示します。特定のアクチュエータでの電圧と電界強度の変換率は、層厚によって決まります。コンポーネントの実際の誘電損率は、力学的プリロード、温度、制御周波数、受動素材の量などその他の要因によって変化します。

継続的な動的運用

ピエゾアクチュエータを目的のダイナミクスで動作させるには、ピエゾアンプが特定の最小要件を満たしている必要があります。こうした要件を評価するには、アンプの出力電流、ピエゾアクチュエータの動作電圧、および動作周波数の関係を検討する必要があります。

三角波による駆動

対称的な三角波によりピエゾアクチュエータを駆動する場合、アンプの平均電流とピーク電流の両方が関係します。アンプの最大動作周波数は以下のように推定できます。

ここに、充電時間、すなわち半周期の間アンプがImax = 2 Ia以上の電流を供給できなければならないという2次的な条件が加わります。これが不可能な場合には、最大動作周波数を適切に下げて選択する必要があります。高いピーク電流を供給できないか、ピーク電流を十分な時間にわたり供給できないアンプについては、代わりに以下の式を計算に使用してください。

正弦関数による駆動

正弦波により継続的に運用する場合、データシートに記載されているアンプの有効電流または平均電流Iaが重要なパラメーターになります。規定の環境条件では、平均電流は無期限に保証されます。

正弦波の単一パルスが短時間だけ供給される場合には、以下の式を使用できます。

上記の式は、半波間に必要なピーク電流を計算するものです。アンプは、このピーク電流を少なくとも半周期の間供給できなければなりません。単一パルスを繰り返す場合、ピーク電流の時間平均が許容平均電流を超えないようにする必要があります。

Iaアンプの平均電流(ソース/シンク) [A]
Imaxアンプのピーク電流(ソース/シンク) [A]
f動作周波数[Hz]
Cアクチュエータの静電容量[F]
Vppピエゾ電圧(ピークツーピーク) [V]

信号の形状と帯域幅

ピエゾアンプの電力の推定に加えて、正弦波形から生じるすべての信号形状で小信号帯域幅を評価することも重要です。

伝達される制御信号の高調波が少なくなるほど、主波の形状(すなわち正弦波形)に戻る派生形状の数は増加します。したがって、伝達されない高調波から信号バイアスが生じないようにするため、帯域幅は基礎周波数の10倍以上にする必要があります。

実際には、機械的なピエゾシステムが応答可能な使用できる周波数の限界は、機械的な共振周波数となります。このため、電気制御信号に、この周波数よりはるかに大きい周波数を含める必要はありません。

ピエゾアクチュエータは、最速で共振周波数の周期の1/3の時間で変位することができます。応答時間をマイクロ秒台に、加速度を10,000 g以上にすることは可能ですが、ピエゾアンプのピーク電流をきわめて大きくする必要があります。これにより、噴射バルブ、油圧バルブ、スイッチングリレー、光学的スイッチ、補償光学などのスイッチング用途を実現できます。

一定電流での充電プロセスでは、以下の式からパルスモード動作の最小立ち上がり時間を求めることができます。

前述のように、アンプの小信号帯域幅はきわめて重要です。アンプにより変位が制限されないよう、アンプの立ち上がり時間はピエゾアクチュエータの応答時間よりも十分に短くしなければなりません。実際には、大まかに言ってアンプの帯域幅は共振周波数の2~3倍にする必要があります。

スイッチング用途における位置制御のメリットとデメリット

クローズドループコントローラーは、常に電圧および電流の線形制御範囲内で動作します。ピーク電流は制限され非線形的であるため、安定した制御パラメーターとして使用することはできません。このため、位置制御では帯域幅が制限され、記載どおりのパルスモード動作を行うことはできません。

スイッチング用途では、位置制御を使用すると必要な位置安定性および線形性が得られない場合があります。線形化は、電荷制御アンプや多数の補正方法を用いることで達成できます。

tVppがピエゾアクチュエータに印加されるまでの時間[秒]
Cアクチュエータの静電容量[F]
Vppピエゾ電圧(ピークツーピーク) [V]
Imaxアンプのピーク電流(ソース/シンク) [A]

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